あいうえおんがくたい
京都女子大学 発達教育学部 児童学科 音楽ゼミ(深見友紀子)
「おかあさんといっしょ」その魅力に迫る…
●子ども向けコンサートに大切なことって?
「司会の人はもっとテンション上げなきゃ!!」
「子どもたちへの声掛けがいつも同じ」
「もっと子どもたちの声を汲み取った声かけをしないと!」
第一に挙げられるのはもちろん「演奏」だと思いますよね。しかし〈あいうえおんがくたい〉の活動を通して、保育現場で実際に働かれている方からの意見を頂き、私のなかで考え方が変化してきました。それはこんな意見でした。
「いたずらたまごの大冒険」
2014/01/28 発売 お兄さん/横山だいすけ お姉さん/三谷たくみ
司会進行についての意見だったのです。
私自身もこれまでの演奏会で数回司会進行をしたことがあり、改善の為に何か参考になるものがないかと思いついたのがこれ。
NHK 『おかあさんといっしょ ファミリーコンサート』!!
歌のお兄さんとお姉さんたちがステージ上で繰り広げるパフォーマンスに子どもだけでなく大人でさえも釘づけになってしまう。私は、ここに魅力的なコンサートをつくりあげるヒントがあるはずと考え、動画鑑賞の末「子ども向けコンサートに大切なこと」について分析をしました。
以下4項目は私の抜粋した、魅力的な司会進行の場面です。
●おかあさんといっしょ ファミリーコンサート
【オープニング】
「みんな!こんにちは!今日はこの森で音楽会をするよ!最後まで楽しんでいってね!」
→「森の音楽会」という言葉を用いて、子どもたちが「何が始まるの?!」という期待感でいっぱいになれるような声掛けをしています。また「森の音楽会」というように、テーマ設定をし、初めから子どもたちがその世界にいる感覚になれる言葉掛けでもあるのではないでしょうか。仮にこのようにテーマ設定をしないでコンサートを進行したとしても子どもたちはきっと楽しんでくれることでしょう。しかしこのテーマ設定こそが長時間子どもたちを飽きさせない工夫ともなっているのだと考えました。
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①コンサート全体を通して
このコンサート中に歌われた楽曲数は27曲もあります。こんなに曲数があると、導入司会がパターン化してきてしまいますよね。実際私たち〈あいうえおんがくたい〉も「じゃあ、次の曲は~」という声掛けを毎回してしまっており、結果的にパターン化した司会になってしまっていました。が、しかし、本コンサートにおいては「森の音楽会」というテーマがあり、すべての曲がそのストーリー進行に合致した選曲となっています。例えばこのシーン。「森といえば森のくまさん!」と関連づけをした導入を行っています。
【曲と曲の間の司会】
こちらは、お兄さんたちが迷えるタマゴの為に「タマゴちゃんの為におうちを作ってあげよう!」と張り切っている場面ですね。このように、前後のストーリー展開に関連した導入を行うことで、コンサートの流れを止めることなく進行することができます。
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「ちょ~っと待った~!もうちょっと、みんなで遊ぼう~!」という声掛けと共にお兄さんたちが客席の中にまで歩みより、一体感を生んでいました。このようにアンコールを求めるのではなく、「子どもと一緒になってコンサートを楽しもう」という想いが伝わってくる導入であると感じ大変印象的な場面です。
【会場を巻き込む司会力】
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ご覧になりましたか?!一瞬の隙も見せないくらい笑顔で居続けるお兄さんたちの姿が、脳内に焼き付けられて離れません。かつトーンの高く大きな声で子どもたちに語りかける様子は見ている誰しもを元気づけます。〈あいうえおんがくたい〉の司会を少し経験した私ですが、最高潮のテンションで子どもたちへの声掛けができたことは無いでしょう。まさにこの自然体で、より子どもの心に響くテンションは〈あいうえおんがくたい〉に最も求められる技量だと私は考えました。
【子どもたちを一つの正解に導く仕掛け】
コンサートは演奏側だけでは成り立ちません。お客さんがいて初めて成り立つものです。そうなると演奏者と観客つまりここでは子どもたちとのコミュニケーションが不可欠になります。〈あいうえおんがくたい〉も、できるだけ沢山子どもたちとのコミュニケーションを図りたくて、声掛けをしてきました。それなのに「子どもたちへの声掛けがいつも同じ」という指摘を何度も受けてしまいました。
さあ、歌のお兄さんお姉さんたちは一体どのような声掛けを子どもたちにしていたのでしょうか。
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ここに一つの共通点があります。問い掛けに対する答えが必ず一つしかない質問をしていたのです。例えばステージ上にあるモノをお兄さんたちが探すシーンで、正解のモノにスポットライトを当てて予め正解をわかりやすく提示する。こうすることで自然と子どもたちを一つの正解に導くことができますよね。主にこのような語りかけが多く、「この曲どうだったかな?」などと一人ひとりの捉え方によって答えが異なってくるような質問はありません。よって観客である子どもたち全員の気持ちに寄り添い、「自分の意見を聞いてもらえなかった」という悲しい気持ちにさせることは防げます。
この声掛けは「おかあさんといっしょ」のように、司会に対し一人ひとりに声を掛けていくことが到底困難な人数の観客がいた際に大変効果的であり、私たち〈あいうえおんがくたい〉のように少人数の観客向けコンサートにて効果的であるとは限りません。つまりこれは、スムーズにコンサートを進行させる為の「子どもたちを一つの正解に導く仕掛け」であるといえます。
●まとめ
以上4項目が私の分析結果です。このように分析すると「司会から子どもたちへの意図のない声掛けは一つもない」という答えに繋がるのではないでしょうか。
〈あいうえおんがくたい〉の公演をより一層良いものにしていきたいという想いから始まった今回の研究。「おかあさんといっしょ」を参考動画として用い分析を進めてきてわかったことは山ほどあります。しかしその中でも特に、〈あいうえおんがくたい〉と「おかあさんといっしょ」に共通していた想いがあることに気が付きました。それは「子どもたちを楽しませたい」「子どもたちの笑顔を見たい」ということです。この想いを持ち演奏側が子どもたちと一緒にコンサートを楽しむことこそが「子ども向けコンサートに大切なこと」なのです。これは一見当たり前のこととも捉えられますが、実現させる為には数多くの工夫が求められます。〈あいうえおんがくたい〉に足りていなかったその数々が「おかあさんといっしょ」には詰まっていました。しかしこれは「子ども向けコンサートに大切なこと」のほんの一例に過ぎません。その場の状況に応じて異なった司会をしていくことが求められます。
今回の研究をもとに、私たち〈あいうえおんがくたい〉のコンサートの改善ポイントを探り出していくと共に、今後同じような活動をしていく方々の参考になれば幸いです。
●参考資料
・子供好きチャンネル
2015/11/29 「おかあさんといっしょ いたずらたまごの大冒険!」
Retrieved from https://youtu.be/dZt_4nkb4jo
・NHKエンタープライズ(2014) 『いたずらたまごの大冒険!』, 98分