あいうえおんがくたい
京都女子大学 発達教育学部 児童学科 音楽ゼミ(深見友紀子)
童謡がより活きる演奏法~ピアノに電子ドラムをつけたら…??〜
保育現場では、アカペラで歌う時を除き、多くの子どもたちは先生のピアノ伴奏で歌をうたっています。様々な曲がありますが、ポップなリズムの曲の場合でも伴奏はピアノのみ…。ピアノ演奏が得意でない保育者はピアノでポップなリズム感をつくり出すのは難しいですよね。一方、保育系大学などには、私のように、吹奏楽部や軽音楽部でドラムや電子ドラムを演奏してきた学生も多いです。
そこで、ピアノ+電子ドラムで、童謡をよりポップにするというアイデアを思いつきました。
〇電子ドラムについて
まず今回、研究するに当たって使用する電子ドラムはこちら!
じゃーん!HD-3 V-Drums Liteです(クリックしてこの電子ドラムの特徴をぜひご覧ください)。電子ドラムは、音量を適度にコントロールできる他、ケーブルを繋いで音楽を再生し、それと共に演奏することも可能です。実際の保育現場、特に幼稚園では保育者が1クラスに1人というところがほとんどのため、この機能を利用すれば1人でも問題なくピアノと電子ドラムを兼ねた伴奏ができますが、この研究では、2人の保育者が協力して伴奏することを想定し、私が電子ドラム、ピアノは井上さんが演奏しました。
〇曲を選ぶ
保育現場でよく使用される童謡がバランスよく収録された『子どもの弾き歌いベスト50 注釈付き』(深見友紀子著、音楽之友社)の中から、ドラムと相性が良い楽曲を選ぶことにしました。ドラムとの相性という観点では、作曲年が比較的新しく、曲の雰囲気がPopsのジャンルに近い童謡に絞り込み、以下の3曲に決定しました!
・アイスクリームの唄 詞/佐藤義美 曲/服部公一
・ふしぎなポケット 詞/まど・みちお 曲/渡辺茂
・バスごっこ 詞/香山美子 曲/湯山昭
〇楽譜をつくる
ドラム譜は、「iWriteMusic Free for iPad」というアプリを使って、つくりました。このアプリは無料版なので、楽譜の背景にアプリ名のロゴが入ったり、本体から外部へMIDIデータを転送することができなかったりと制約はありますが、再生ボタンを押して聴くことができ、楽譜をプリントアウトすることできます。学生の皆さんや現場の先生方にも手軽使えると思います。
〇演奏してみよう!
さあ、ついに電子ドラムを演奏しますよ~~^^
ドラム譜は、それぞれの曲に①多くの保育者がすぐ取り組めるような簡単バージョン ②演奏経験があり、音楽が得意な保育者に向けた難易度が少し高いバージョン の2つをつくりました。「ピアノ+電子ドラム①→ピアノ+電子ドラム②」という順で演奏をしたので、ぜひ聴いてみてください。また、ドラマーの鈴來正樹先生が動画①②を観て、アドバイスをくださいました。また、京都女子大学発達教育学部児童学科2回生にもアンケートを実施し、意見を集めました。これらのアドバイスや意見を踏まえ、歌を付け加えた“改訂版”もつくりました。
♪アイスクリームのうた
動画URL:https://youtu.be/Wz45bc2SW4s
①では、ドラム初心者がすぐに演奏できるように、手と足で同じリズムを刻むか、手がある時は足を無くすといった工夫をしました。前半は1.3拍にバスドラムを踏み、後半はバスドラムとスネアドラムを同時に演奏し、マーチ風になっています。
②では、この曲の雰囲気をつくりあげる三連符を基調とした“タッカのリズム”を大切にし、「ピチャチャチャ」「トロントロ」といったオ ノマトペをドラムで補強した他、フィルインも難しくしました。
動画URL:https://youtu.be/6_EH4mQHvH4
①に対して「乗りやすい!」「一定のリズムがあり楽しそう」「取り組みやすそう」との意見がある一方で、「単調すぎる」「躍動感を感じない」といった批判も多くありましたので、少しタッカのリズムを取り入れ、躍動感を出しました。
②については、イントロを長くして、子どもたちが手拍子で参加できるようにしました。「ピアノ音がかき消されている箇所がある」という声もあったので、クラッシュシンバルを控えめにするなど、工夫してみました。
♪ふしぎなポケット
動画URL:https://youtu.be/wEgbs4h3E1g
①ではハイハットシンバルとスネアドラムでの裏打ちを軸に軽快さを出しました。テンポが速い曲ではないので初心者の方でも挑戦しやすいです。
②では、ピアノ伴奏との兼ね合いに気を付け、イントロの流れるようなメロディー、歌が入ってからの元気な雰囲気を活かしました。
また、どちらにも共通しますが、100→82→100とテンポが変化するおもしろさを活かしたものにしています。
動画URL:https://youtu.be/1BTdO6D4RFI
①では、最後の部分のスピード感を足すためスネアドラムで8分音符を刻み、クレッシェンドをつけました。
②では、冒頭もピアノと同じく16分音符を刻み、軽さを出しました。
また、どちらにも共通して、テンポが82のところに4分音符のハイハットをつけました。こうすることで、ドラムが先導しピアノも子どもたちもリズムやテンポを取りやすくなります。「曲の雰囲気を壊さず、その中でドラムの音がより良くしていた」「わくわくしてよかった」等の声をいただき、この曲が1番好評な結果となりました。“曲の雰囲気に合った”伴奏を考えるのは大切だということが分かります。
♪バスごっこ
動画URL:https://youtu.be/_qaougML-Ls
①では、簡単なバスドラムとスネアドラムを中心に、少しのタムやシンバルで表情をつける形にしました。「ハイ」のところはクラッシュシンバルのところを大きな声で、ハイハットシンバルの部分を小さな声で子どもと歌うと楽しいと思います。
②では、ダンスミュージックで多用される、1小節に4分音符をバスドラムで4つ鳴らす“4つ打ち”で演奏し、楽しい雰囲気を出しています。
動画URL:https://youtu.be/ysMI_1GeXBk
①では、「単調だった」という意見が目立ったためスネアドラムを裏拍で刻みました。テンポが速いため、バスドラムは1拍目と3目だけ
②では、「ドラムの主張が激しいと思うところがあった」との意見もあったので、小節間のフィルインは少し控えめに、かわいい感じにしてみました。
〇まとめ
現在、以前より、電子ドラムと子どもとの距離は近くなっています。特に、電子楽器メーカーのローランド株式会社では、子ども向けに様々な曲を無償提供したり、ビート・ガイド機能があり子どもが楽しく簡単に演奏に取り組める『V-Drums Friend Jam Kids』というアプリを開発し、電子ドラムと子どもとの距離はますます近づきそうです。
以下に、「保育現場で電子ドラムを使うことは良いと思うか」という質問に対する京都女子大学発達教育学部児童学科2回生(78人)の回答結果を示しました。
肯定意見が過半数となりましたが、否定意見ももちろんあります。現在の保育現場のように、ピアノだけでも子どもたちと音楽を楽しめます。しかし、〈あいうえおんがくたい〉のコンサートでも楽器の名前を知っているか子どもに問いかけた時に「ドラム」という声が返ってきたり、終演後楽器の周りに集まり楽器に触れていた様子でも分かったように、子どもは電子ドラムに興味を持つことができます。よって電子ドラムをはじめ、他の楽器を歌唱活動に取り入れてみることは、保育者が日々の音楽活動において視野を広げるための一方法であると私は思います。これから子どもがたくさんの楽器と共に音楽・歌唱活動を楽しんでいけたら良いですね。
参考・使用資料
・iWriteMusic < http://iwritemusicapp.com/
・ ローランド株式会社 < http://www.roland.co.jp/ >
・深見友紀子(2011)『子どもの弾き歌いベスト50 注釈付き』株式会社 音楽之友社